科研費特定領域研究の成果普及の一環として,点字,触圧,指導法に関するワークショップ(勉強会)を12月23日(土)に都内で開催しました。報告会のプログラム・概要・配付資料はこちらのページをご覧下さい。
視覚障害者が点字を触読する際,熟達者は触圧(紙面に指が触れる力)が軽く,かつ安定しているのに対して,未熟者は触圧が高く,かつ文字ごとに大きく変動するといわれてきました。過去の研究では,これらのことが実験的に示されています。しかし測定データが定量的でないため,同じ装置を使った測定の範囲内でしか熟達者と未熟者の触圧の比較ができず,汎用性がありません。更に記録装置の物理的特性から,細かな触圧の変化を捉えられていません。これらの問題はいずれも,触圧あるいは力の測定に高度の技術が必要なことに起因します。そこで,新しい計測技術を使って触圧を精密に計測し,点字読み能力(ここでは読み速度)と触圧の関係を明らかにすることが本研究の第一の目的です。その際,運指の速度と触圧の定量データから,触による点字の認知機序についても考察します。
点字読み能力と触圧の関係,とりわけ熟達者に特徴的な触圧が判明すれば,これを目標値とした点字への触れ方の指導ができると考えています。また,もし触圧測定装置が手軽に入手できるようになれば,実時間で測定した触圧値を観察しながら触れ方の指導ができるでしょう。このように触圧に関する知見を点字指導法の改善に結びつけることが本研究の第二の目的です。
微小変位センサの原理による触圧測定装置を製作し,点字読者4人を被験者として触圧の測定を行いました。その結果,以下のことがわかりました。
他方で,出力値が不安定という問題がありました。
左から順に,写真1:平成15年度に開発した触圧測定装置の外観,写真2:微小変異センサ
面圧力分布測定システムを使い,点字読者5人を被験者として触圧の測定を行いました。その結果,以下のことがわかりました。
しかしこのシステムでも,出力値が安定しない点が問題でした。
左から順に,写真1:面圧力分布測定システムのセンサ上に点字用紙を乗せ,触読している様子,写真2:点字触読時の触圧データの測定例
6軸力センサを使った測定システムについて,情報収集,機器購入,信頼性検証を行いました。このセンサを使った接触力測定をしてこられた電気通信大学の下条誠氏,島田茂伸氏(現在は東京都立産業技術研究センター)の2人から技術的指導を得ています。
6軸力センサを使えば接触力を安定して測定できることがわかったので,点字読者を対象とした実験を進めました。6ヶ月をかけて,合計32人に実験に参加してもらい,データを収集しました。
左から順に,写真1:6軸力センサ,写真2:測定システム上の点字を1本指で読む様子,写真3:点字触読時の接触力データの例。上のグラフは指の接触位置の時間的変化,下のグラフは接触力の時間的変化を表します。接触位置について見ると,横方向の動きは鋸歯状を,縦方向の動きは階段状になっています。横方向が直線的に上昇する区間で縦方向は一定値を保っています。この区間は,指が点字1行を一定速度で左から右へなぞっている動作に相当します。
Last updated: 2007年 8月16日
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