パソコン・インターネット・携帯電話利用状況調査に答えて下さった413人の視覚障害の方々はどんな人たちだったのでしょうか。年齢は何歳くらいで,障害の程度はどれくらいで,どんな職業に就いているのでしょうか。厚生労働省による実態調査と比べながら紹介していきます。
パソコン・インターネット・携帯電話利用状況調査(以後,「ICT調査」とします)の回答者の年齢は14歳から80歳の範囲に分布し,平均は45.8歳でした。図1の棒グラフに示すように,40歳代と50歳代を中心としています(図中の灰色の棒)。
一方で,平成18年身体障害児・者実態調査(以後,「厚労省調査」とします)における視覚障害者の年齢分布は,同じく図1に示すように,年代が上がるほど割合が高くなり,60代が20%強,70代以上が50%近い割合を占めます(図中の白色の棒)。
このように,ICT調査回答者のほとんどが労働年齢(18歳〜64歳)に含まれるのに対して,実態調査回答者の約6割が労働年齢より年長であることが,年齢分布に関する大きな違いです。
図1 調査回答者の年齢分布(ICT調査は412人,厚労省調査は314.9千人(推定値))
身体障害者福祉法では,視覚障害の程度を,視力と視野によって1級から6級までに分類しています。6級が障害の程度が最も軽く,1級が最も重いとされます。この等級により,税や公共料金等の減免,受給できる公的年金,受けられる福祉サービスなどが変わります。
図2の棒グラフに示すように,ICT調査では,障害等級1級の人が圧倒的に多く69.0%を占めました。次に2級の人が多く21.5%。厚労省調査でも1級,2級の順で人数が多い点は同じですが,1級の割合が36.1%であり,ICT調査の半分程度です。その分,3級から4級の人の割合が高くなっています。
図2 調査回答者の障害等級の分布(ICT調査は412人,厚労省調査は314.9千人(推定値))
以上の厚労省の数値は推計値です。以後は,実数値を用います。
ICT調査では,視覚を使って文字の読み書きができるかどうかを尋ねました。その結果を図3の棒グラフに示します。視覚を使って文字の読み書きができないと答えた人の割合は,1級で89.5%,2級で32.6%,3級から6級で14.3%,身体障害者手帳を持っていない人で0%でした。このように,障害が重度になるほど,視覚を使って文字の読み書きができない人の割合が大きくなる様子が明確に表れました。
図3 ICT調査における障害等級別に見た視覚的な文字の読み書きの状況(412人)
一方,厚労省調査では,点字を使う人の割合を調べました。図4の棒グラフは,点字ができる人/できない人,できない場合は点字を必要とする/しないという割合を障害等級ごとに表したものです。点字ができる人の割合は1級で25.2%, 2級で13.0%にとどまります。3級から6級では,点字ができる人はほとんどいません。
図4 厚労省調査における障害等級別に見た点字利用と必要性の状況(364人)
目で文字の読み書きができなければ点字を習うものと自動的に考えてしまいます。ところが,両調査の1級の人のグラフを比べてみると,ICT調査で視覚を使って文字を読み書きできない人が89.5%いるにも関わらず,厚労省調査で点字ができる人は25.2%に過ぎません。点字ができないけれど必要と考える人もわずか5.2%です。逆に,点字ができなくて,必要もないと答えた人が46.7%に上ります。2級でも状況は同じです。
このように数値が異なる理由の一つとして,厚労省調査における回答者の7割が60歳以上であり,この人たちの点字使用率が60歳未満の人たちより低いことが挙げられます。詳細な数値が公開されている平成13年の厚労省調査の結果を見ると,1級188人のうち18歳から59歳までの54人の中で点字ができる人が20人(37.0%)なのに対して,60歳以上134人の中で点字ができる人は13人(9.7%)に過ぎません。
一般の文字と点字の両方とも使わない人は音声情報に頼っていると考えられます。実際,厚労省調査では,視覚障害者の情報入手の手法として,約半数以上の方がテレビ,家族・友人,ラジオを挙げています。今や点字図書館でも,点字図書よりも録音図書の方が貸し出しタイトル数が多くなっています。 。
ICT調査回答者の就労状況を分類したところ,仕事に就いている人が最も多く58.4%,仕事に就いていない人が30.5%,学生11.1%となりました。この状況を年代ごとに見たのが図5です。10代では学生が94.4%とほとんどを占めます。20代で仕事に就いている人が現れて38.0%となり,学生の42.0%とほぼ均衡します。30代から50代は仕事に就いている人が70%強であり,大部分を占めます。これより年齢が上の60代と70・80代では,仕事に就いていない人の割合の方が高くなります(64.7%と68.8%)。
図5 ICT調査における年代別に見た就労状況(412人)
平成18年の厚労省調査では,仕事に就いていると回答した人は81人でした。これは回答者総数379人の21.4%にとどまり,ICT調査の約3分の1です。この違いも,回答者に占める60歳以上の人の割合の高さに起因すると考えられます。そこで,詳細なデータが読める平成13年の厚労省調査結果から,年代ごとの就労率を求めました(図6)。不就労者の数は,総数から就労者を引いた値としています。20代から50代では就労者の割合が高いですが,その値は60%以下です。このため30代から50代では,ICT調査回答者の就労率より10%程度ずつ低くなっています。65歳以上では,仕事に就いていない割合が91.0%にも上ります。この年代の人が全回答者の64.0%を占めますので,全体の就労率も23.8%(平成13年)にとどまるのです。
図6 厚労省調査(平成13年)における就労者の勤め先(416人)
このように,ICT調査では労働年齢からの回答が多く,また,30代から50代において高い就労率であったため,全体の就労率が厚労省調査よりも高い結果となりました。もう一つの特徴として,筑波技術大学の学生が全回答の1割弱の36人を占めるので,20代と30代において学生の割合が高くなりました。
ICT調査における労働年齢の回答者(18歳から65歳まで)から学生を除いた人を,視覚を使って文字の読み書きができる/できないで二つのグループに分けてみました。それぞれのグループにおける就労率を比べたところ,視覚的な文字の読み書きができると答えた人の就労率は66.7%,できないと答えた人の就労率は71.5%で,できないと答えた人の方が若干高い数値となりました。なお,視覚的な文字の読み書きができると答えた84人の平均年齢は46.5歳,できないと答えた242人は46.0歳で,両グループで年齢的な差はほとんどありませんでした。
ICT調査で,勤め先を回答した人は241人,そのうち5人が複数の勤め先を回答しました。勤め先を人数の多い順に並べたのが図7です。自営が最も多く76人(31.5%),これに大学及びその他学校46人(19.1%)と民間企業38人(15.8%),病院及び治療院30人(12.4%)が続いて,これらで就業者の約4分の3を占めました。
図7 ICT調査における就労者の勤め先(241人)
平成18年の厚労省調査では,仕事に就いていると回答した人は81人でした。その就業状態を表したのが図8です。自営業者が35人(43.2%)と最も多い点はICT調査と同じです。次に多いのは常用雇用労働者で19人(23.5%)です。ICT調査では大学及びその他学校から官公庁までが常用雇用に当たると考えられますが,それらの合計と比べると,厚労省の常用雇用労働者の割合は低い値にとどまっています。
図8 厚労省調査における就労者の勤め先(81人)
ICT調査で,職種を回答した人は233人,そのうち4人が複数の職種を回答しました。職種を人数の多い順に並べたのが図9です。理療(あんま,マッサージ,はり,きゅう)が最も多く103人(42.7%),教員が50人(20.7%),技術職が29人(12.0%),事務職が24人(10.0%),その他31人(12.9%)でした。
図9 ICT調査における就労者の職種(233人)
その他の内容も興味深いと思われますので,具体的な職種と人数を以下に示します。点字の図書製作・校正・指導:4人,視覚障害相談業務:3人,会社等経営:3人,パソコンの指導:2人,テープ起こし:2人,介護支援専門員:2人,芸能関係の仕事で落語家,演奏家,アーティストが各1人,福祉関係の仕事で盲ろう者団体役員と福祉職が各1人,上記以外で図書館司書,電話交換手,医師,研究職,サウンドスケープデザイナー,外国業務のサポート,出版とリサイクル業,不動産運営,接客,専門職,各1人。
平成18年の厚労省調査でも,あんま,マッサージ,はり,きゅうの仕事に就いている人が最も多く24人(29.6%)でした。次に多かったのは専門的,技術的職業の9人(11.1%)です(図10)。
図10 厚労省調査における就労者の勤め先(81人)
ICT調査では,仕事に就いている人の数が厚労省調査の3倍に上るため,職種が変化に富んでいます。理療に次いで,教育機関に勤める人が多かったのも特徴でしょう。
ICT調査におけるパソコンの利用率は94.7%,パソコンを介してインターネットを利用している割合は93.5%と,どちらも高い数値となりました。これは,メールによる回答が78.0%を占めているので当然と言えます。ここで,回答媒体ごとに利用率を求めてみると,電子メールによる回答者のパソコン利用率99.1%に対して,拡大印刷版で79.2%,点字版で61.3%と下がる傾向が見られました。パソコンを使っていない人も調査対象とするため,拡大印刷版と点字版の質問・回答用紙を用意しました。その目的は達成されましたが,メールによる回答者の割合と結果への影響が大きいことは否めません。
平成18年の厚労省調査の結果では,パソコンを利用するのは12.4%にとどまりました。この数値の低さも,高齢の回答者の数が多かったためと考えられます。そこで,平成13年の厚労省調査のデータを使って年代別の利用率を算出したところ,20代と30代では30〜40%と高くなるものの,40〜50代では10%程度,60代以上では利用者はほとんどいませんでした。
厚労省の実態調査回答者と比べると,ICT調査の回答者は以下のような特徴があります。 労働年齢の割合が高い。
労働年齢だけを比べても,就職率が高い,パソコン利用率が高い,という特徴がありました。 ところで,平成18年の厚労省調査に回答した視覚障害者の数は379人です。これに対してICT調査は413人であり,労働年齢だけについて言えば,ICT調査の方が詳細なデータを提供していると言えるでしょう。
このページは,A.A.O. (Allied-Brains Accessibility Online) コラムのために書き下ろした原稿に加筆し,図を作成し直したものです。
Last updated: 2008年9月9日
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