漢字の詳細読み表現を分かりやすいものとするためには,表現で使用する単語が利用者にとってなじみ深いものでなければなりません。児童を対象とした詳細読みを作成するには,児童の単語親密度をもとに説明用単語を選択することが必要です。しかしながら,児童を対象とした親密度調査は,以下の理由から十分とは言い難いのが現状です。
我々は以前に小規模な単語親密度調査を小学5年生を対象として行いました[2]。その結果を踏まえ,この研究の目的を以下に示す3点としました。また,成人を対象として,NTT研の天野らが実施した大規模な(約8万語)単語親密度実験が『日本語の語彙特性』という資料にまとめられています[3]。
そこで,これらのデータを比較することで,成人の単語親密度から児童の単語親密度を予測できるかどうかを検討しました。
この研究で用いている小学5年生の単語親密度調査の条件は表1の通りです。
調査対象者 | 国立大学附属小学校5年生(156人) |
---|---|
調査単語 | 学習基本語彙から選択した単語(298語) |
呈示方法 | 音声呈示 |
評価方法 | 3段階評価 |
単語ごとに児童が3件法で単語の親密度評価します。 3つの評価基準は以下の通りです。
以下では,この調査で「よく知っている」と答えた者の割合をその単語の親密度と定義します。
小学5年生を対象とした単語親密度調査の結果を表2と図1に示します。
小学5年生[%] | |
---|---|
平均値 | 80.8 |
標準偏差 | 17.8 |
中央値 | 87.2 |
最大値 | 100.0 |
最小値 | 16.7 |
単語親密度区間90%〜100%に最も多くの単語が集中しており,親密度区間が低くなるに従って単語数は減少しています。
小学5年生の単語親密度と成人の単語親密度を比較します。 成人の単語親密度として『日本語の語彙特性』の音声単語親密度を使用します。 『日本語の語彙特性』には,1つの単語を複数の成人(40人以下)が1から7の7段階で評価した平均値が親密度として掲載されています。
成人の音声単語親密度をX軸,小学5年生の音声単語親密度をY軸に取った散布図を図2に示します。
児童の単語親密度調査で用いた単語のほとんどが,成人では単語親密度5以上に評定されていることが図2から分かります。
児童にとって親密度が高い単語を選ぶには,成人の単語親密度いくら以上に設定すべきでしょうか。
成人の音声単語親密度6以上の単語を切り出すと,図2左側に示した青色のヒストグラムのような分布となります。すべての単語は,小学5年生の音声単語親密度で60%以上となり,特に,9割以上の単語は親密度80%以上に集まります。
次に成人の音声単語親密度5以上の単語を切り出すと,図2左側に示した緑色のヒストグラムのような分布となります。9割以上の単語が,小学5年生の音声単語親密度で60%以上となります。しかしながら,これ以下の親密度となる単語も1割弱含まれることになるので,それらの単語は実証(成人の単語親密度6以上の単語で作った詳細読みを児童に聞かせて理解度を測る)を通じて修正が必要となります。
小学校5年生の音声単語親密度と成人の音声単語親密度とを比較しました。 その結果から以下のようなことが示唆されました。
Last updated: 2009年4月15日
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