教育委員会・教育センターWebサイトのアクセシビリティ調査 2005

■ 概要

 都道府県と政令指定都市の教育委員会及び教育センターのWebサイトのアクセシビリティ状況を調査しました。調査した教育委員会のサイト数は60,特殊教育センターのサイト数は55です。アクセシビリティ点検ツールとして富士通株式会社のWebInspectorを用いました。指摘されたアクセシビリティの問題を,問題の重要度,機関ごとの問題数,具体的な問題内容(JIS X 8341の点検項目)の観点から整理しました。また,過去に行った特殊学校Webサイトの調査と点検結果を比較しました。

■ 目次

調査の実施

  1. 調査対象および期間
  2. 調査方法

調査の結果

  1. 優先度により分類した問題数
  2. 機関ごとの問題数の分布
  3. JIS点検項目により分類した問題数
  4. 特殊学校Webサイトとの比較

まとめ


調査の実施

1. 調査対象および期間

調査対象機関は,都道府県及び政令指定都市の教育委員会及び(特殊)教育センターである。

教育委員会は,「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」に従って,都道府県と市町村に設置されている。 教育委員会は5人の教育委員で構成され,教育機関の設置・管理,教職員の人事,就学児童生徒の入学・転学・退学,教職員の研修などの管理・執行を業務とする。 自治体によって違いはあるが,この事務局を教育委員会ではなく別の名称(例えば,教育庁)で呼ぶこともある。

教育センターは都道府県教育委員会の出先機関であり,調査研究,教員研修,相談業務の3つを業務の柱とする。 そのうち特殊教育にかかる部門を独立させたのが特殊教育センターである。 特殊教育センターを設置している自治体の数は限られており,全国的には総合教育センターへ統合している自治体が多い。

調査は,平成17年9月9日から20日の約2週間(実際の作業は6日間)に実施した。 都道府県及び政令指定都市の教育委員会及び(特殊)教育センターのうち教育委員会のWebサイトは,文部科学省のWebサイト[1]からリンクをたどることができる。 同様に,教育センターのWebサイトは,国立特殊教育総合研究所のWebサイト[2]からリンクをたどった。 ここで見つからなかった場合,検索エンジンを使い,センター名をキーワードにして検索した。 実際に調査したサイト数は,教育委員会が60機関,教育センターが55機関となった。 それぞれの詳細を以下に示す.

教育委員会

合計60機関

(特殊)教育センター

合計55機関
以上をまとめ,表1に示す。

表1 : Web サイトのアクセシビリティを点検した機関
機関の種別自治体の種別チェックできた機関数
教育委員会都道府県47
政令指定都市13
(特殊)教育センター都道府県47
政令指定都市8
合計55


2. 調査方法

 点検ツール(ソフト)として富士通のWebInspector ver.4を用いた。これは日本 工業標準(JIS)「高齢者・障害者等配慮設計指針」[3]に対応した点検が可能で, ソフトは富士通のWebサイトからダウンロードして無料で利用できる[4]。

点検ツールが問題とした項目は,修正の必要性が高いものから順に「優先度1〜 3」及び「その他」の4種類のカテゴリに分けられる。さらに,各カテゴリ内で 「修正」または「確認」の2種類に分けられ,合計8つのカテゴリごとに問題項 目の個数が表示される。これらの数が少ないほどアクセシビリティが高い。この カテゴリとは別に,JISの点検項目のうち19項目に対応した問題の数も出力され る。

今回点検したのは,各サイトのトップページと,そこからリンクされているページのうち,同じドメイン内にあるページのHTMLファイルである。 Webページにスタイルシートを使っているサイトでは,HTMLファイルとCSSファイルの両方が点検されるので,その機関の問題数は,両者の問題数を足しあわせた数とした。 ページにフレームを使っている場合は,フレームが指し示すHTMLファイルを点検した。


調査結果

1. 優先度により分類した問題数

グラフ:優先度ごとの全問題数
図1:優先度ごとの全問題数

全機関の問題数を優先度ごとに合算し割合を求めた結果を図1に示す。 教育委員会と教育センターどちらにおいても,最も問題数の多い優先度区分は「優先度1確認」であった。 それぞれ,全問題数の61.6%と50.7%を占めている。 これに,「優先度1修正」と「優先度2修正」が次いでいる。 「優先度3」と「その他」に該当する問題は見られなかった。問題内容の詳細は後の項で説明する

2. 機関ごとの問題数の分布

グラフ:(a)教育委員会の問題数分布
(a)教育委員会 (n=60)
グラフ:(b)教育センターの問題数分布
(b)教育センター (n=55)

図2:機関ごとの問題数の分布

機関ごとに,全問題数を総点検ファイル数で割った値,つまり1ファイル当たりの問題数の平均値の度数分布を図2に示す。 横軸のデータ区間は,0から100までは10刻み,100から500までは100刻みとした。縦軸は頻度(機関数)を表す。 教育委員会と教育センターどちらにおいても,問題数10以上40未満の区間に最も多くの機関数が集まり,この段階での累積度数は教育委員会で75.0%,教育センターで72.7%であった。他方で,1ページ当たりの問題数が100を超える機関も少数だが見られた。 これらの状況は,度数分布を見る限り教育委員会と教育センターの間で大きな違いはなかった。

3. JIS点検項目により分類した問題数

どのような問題が多く指摘されたかを見るため,JIS X 8341-3の点検項目ごとに問題数を計数し,ファイル数(全機関のファイル数の総和)で割った平均値を棒グラフに示した(図3)。計数された項目は20種類である。

グラフ:JIS点検項目別問題数(教育委員会・教育センター)
図3:指摘されたJIS点検項目数(ファイル当たり)

図3を見ると,1ページ当たりの問題数が顕著に多かった点検項目は,5.2c, 5.3e, 5.4a, 5.4b, 5.6a, 5.6c, 5.9a, 5.9e(これらは,JIS X 8341-3における項目番号)であることがわかる。

これらの内容を順に確認する。

図2に示されるように右の裾野へ長く分布したデータでは,裾野部分のデータが平均値に大きな影響を及ぼす。 そこで,ファイル当たりの問題数が100を超えたサイト(教育委員会,教育センターともに各々4機関)のデータを削除して,先程と同様にJISの点検項目ごとの問題数を数えてみたところ,教育センターにおいては5.3eと5.4bで1.3,5.6aで2.0,5.6cで2.6と大きく値が下がった。 教育委員会では5.6aで9.4も下がった。それでも,5.6a,5.6cが顕著に多く,5.2c,5.4aがこれに次いで多い状況に変わりはなかった。

なお,4.2a,4.3cなどは図3ではほとんど0に見えるが,正確には0ではなく,図に示した20の項目すべてにおいて問題は指摘されている。

4.特殊学校Webサイト調査との比較

以前に実施した特殊学校Webサイト調査[5](概要は盲・聾・養護学校Webサイトのアクセシビリティ調査 2005で紹介)と比較を行う。 まず問題数の度数分布についてみると,特殊学校では,60.0〜75.9%(盲・聾・養護学校ごとに分けている)の学校においてトップページの問題数が20以下となっており,教育委員会・教育センターと比較すると問題数が少ない。 ただし,特殊学校ではトップページしか調査していないこと,教育委員会・教育センターのサイトは特殊学校に比べて情報量が多いことは相殺して考える必要がある。 JISの項目ごとに分類した平均の問題数を比べると,最も多い問題数が,特殊学校では5.6cなのに対して,教育委員会・教育センターでは5.6aであった。他の項目の問題数の状況は両者でほぼ一致している。

まとめ

特殊教育関連機関のWebサイトのアクセシビリティを,点検ツールWebInspectorを使って点検した。 アクセシビリティを向上するために修正が推奨される要件の指摘される割合が多かった。

機関ごとの問題数の分布からは1ファイル当たり問題数50未満の機関が7割を占める一方で,問題数が100を超えるサイトも,教育委員会・教育センターとも4機関ずつあった。 JIS点検項目では,特殊学校同様に,文字のサイズの固定,見えづらい色の選定の問題が最も多かった。 これに加えて,単語中へのスペース挿入などは,アクセシビリティ問題への認識が欠けている結果といえる。 Webアクセシビリティの確保は,HTMLファイル作成技術の要件に加えて,アクセシビリティ指針の認識が大きな役割を果たす。

今回の調査結果を公表することで,教育委員会・教育センターにおけるWebアクセシビリティの認識向上に役立てたい。

■ 参考文献

[1] 文部科学省, 都道府県教育委員会・政令指定都市教育委員会
[2] 国立特殊教育総合研究所, 都道府県の特殊教育センター等
[3] JIS X 8341-3「高齢者・障害者等配慮設計指針ー情報通信における機器,ソフトウェア及びサービスー第3部:ウェブコンテンツ, 日本規格協会, 東京, 2004.
[4] 富士通アクセシビリティ・アシスタンス
[5] 渡辺哲也, 山口俊光: 盲・聾・養護学校Webサイトのアクセシビリティの現状に関する調査, 国立特殊教育総合研究所プロジェクト研究報告書『障害のある児童生徒等の教育の総合的情報提供体制の構築と活用に関する実際的研究』, 特殊研C-51, pp.33-36, 2005.

■ 発表原稿

■ 謝辞

  点検作業を実施した小熊隆史氏(新潟大学学部生)と,データ整理,及び本ページの作成を行った山口俊光氏(国立特殊教育総合研究所科学研究支援員)に感謝いたします。


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Last updated: 2006年 5月 8日
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