視覚障害者支援に関する研究発表目録2006

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■ ヒューマンインタフェース分野の研究動向

 この項では、ヒューマンインタフェース学会と電子情報通信学会の論文誌及び大会・研究会予稿集の中の視覚障害者支援に関する報告をレビューする。

 2006年に報告数の多かった研究テーマの一つはウェブのアクセシビリティである。「しゃべログ」(NTTサイバーソリューション研究所)は、視覚障害者向けに開発されたブログ読み上げブラウザである1)。階層化表示によるナビゲーションの効率化、効果音の活用、ハイコントラスト表示などを特徴とする。同研究所ではほかに、晴眼者がウェブ画面を見たときに見出し項目だと思う文字の属性を調べた2)。同種の研究として電通大の梅垣は、ウェブページのグループ化に背景色と枠線が多用されていることを確認した3)。このような文字属性や、背景色、枠線の情報を、スクリーンリーダや音声ウェブブラウザが読み上げの構造化に活用すれば、音声によるウェブの利用が効率的になるだろう。NTTデータでは、ウェブ上の難しい言葉を簡単な言葉に自動的に変換するシステムを開発した4)。今後は、単語単位ではなく文章全体を易しくする機能が必要だろう。産業技術総合研究所の坂本は、色覚障害のある人でも見やすい配色に画面を修正する手法を提案している5)。

 東大の西本と東京女子大の渡辺らは、文部科学省の特定領域研究「情報福祉の基礎」の一環として、「音声対話」をキーワードとした一連の研究を報告している。その研究目的は、音声だけで情報を伝える専門職の人から、聞き手にとって理解しやすい伝達技法を学び、これを支援システムに応用するものである。西本らが選んだ音声伝達の場面は、対面朗読サービスとテレビ・ラジオの実況中継である。対面朗読を利用して弁当屋のメニューから好みの料理を選ぶ場面を設定し、その対話内容を解析した6)。その結果、はじめに全体的な情報を与え、徐徐に細かい情報を伝えていく情報の階層化と、サービス利用者の質問に朗読者が即座に対応する双方向性が、サービスの利用しやすさの鍵であると判断した。この要件の一部を満たすウェブサイトを開発し、同じ被験者に使ってもらったところ、利用者が主体的に操作できる点が好印象を与えた7)。実況中継の分析は、競馬・野球・サッカーの試合・レースを対象に行われた8)。その結果、テレビ画面に写す文字情報はラジオでは繰り返し読み上げられること、重要な情報も繰り返し伝えられること、間投詞を使って場面の切り替えを効果的に伝えていることなどが分かった。同グループではほかに、理解しやすい写真の説明技法や9)、早口合成音声に対する利用者の慣れ10)、ウェブ情報の構造化の効果などの研究も行っている11)。

 情報アクセシビリティの観点からは、データ放送に関係した研究に注目しておきたい。テレビ番組と連動したデータ放送では、クイズが出題されたり、番組に関連した情報‐スポーツ番組の選手紹介や音楽番組の曲目紹介など‐が提供されたりする。アナログ地上波でデータ放送を受信するにはテレビとは別に専用端末が必要なこともあり、まだ認知度・利用率とも高くはない。ところが2011年に完全移行が予定されている地上デジタル放送においてデータ放送は標準的技術となる。番組関連情報のほかに、ニュースや天気予報などの情報をいつで見ることができる。聴覚障害者にとっては字幕放送が標準になるメリットもある。しかし、データ放送は基本的にグラフィカルユーザインタフェースなので、これを視覚障害者が使えるように、更に使いやすいようにインタフェースを設計する必要がある。現在、この課題にNHK放送技研が取り組み、音声と触覚を組み合わせたインタフェースの提案を行っている12),13)。その研究過程で行われたアンケートでは、デジタル放送受信機を保有している視覚障害者はまだ1〜2割程度に留まるが、今後、地上デジタル放送への移行とともに必ずその利用率は上がるだろう。それまでに、データ放送のアクセシビリティとユーザビリティを保障する研究が実用化まで進展することが求められる。

 これ以外にも、各研究グループが従来からの自分たちのテーマを独自に進めている。それらは、聴覚による障害物知覚、音源定位、漢字の詳細読み、聴覚ゲーム、体表点字、点字プリンタの遠隔利用、点字触読時の触圧、数式文書の取り扱い、プログラミング環境へのアクセス、新機能を備えた拡大読書器の開発などである。雑誌『視覚障害‐その研究と情報』の紙面の都合上これらの文献は載せられなかったが、このWebページに一覧を掲載しているので、興味のある方はご参照頂きたい。

  1. 嵯峨田良江・岡野紋・渡辺昌洋・浅野陽子、2006、視覚障がい者に優しいブログ読み上げブラウザとは、ヒューマンインタフェースシンポジウム2006論文集、1029-1034.
  2. 渡辺昌洋・朝井大介・浅野陽子、2006、ウェブページの情報構造とアクセシビリティに関する検討、ヒューマンインタフェースシンポジウム2006論文集、739-744.
  3. 梅垣正宏、2006、アクセシビリティ向上のためのウェブデザイン認知特性の解明、ヒューマンインタフェースシンポジウム2006論文集、1039-1042.
  4. 中野智子・菅原昌平・阿部修也・乾健太郎、2006、視覚障がい者の聞きやすさを考慮した難語の平易化、ヒューマンインタフェースシンポジウム2006、pp.1035-1038.
  5. 坂本隆、2006、色覚ユニバーサルデザインのための色修正手法―縮退した色空間をどのような拘束条件で復元するか―、ヒューマンインタフェースシンポジウム2006論文集、731-734.
  6. 西本卓也・小川佳奈子・渡辺隆行、2006、対面朗読者と視覚障害者の対話の分析、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-75.
  7. 藤原扶美・下永知子・渡辺隆行・西本卓也、2006、対話分析に基づく視覚障害者用音声対話システム、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2006-67.
  8. 西本卓也・光部杏里・渡辺隆行、2006、ラジオ放送番組におけるスポーツ実況中継の分析、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2006-6.
  9. 荒川慶子・渡辺隆行、2006、写真を音声でわかりやすく説明する方法、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2006-68.
  10. 小野友理子・渡辺隆行・西本卓也、2006、早口音声合成に関する高齢者の慣れ、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2006-70.
  11. 志村ゆかり・渡辺隆行、Web構造化ユーザビリティとアクセシビリティ効果、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2006-69.
  12. 坂井忠裕・近藤悟・半田拓也・伊藤崇之、2006、デジタル放送のマルチモーダル情報提示環境の検討―視覚障害者へのアンケート調査をもとに―、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-84.
  13. 坂井忠裕・近藤悟・半田拓也・伊藤崇之、2006、GUIや表を伝える触角提示インタフェースと評価、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-64.

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Last updated: 2007年12月25日
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