視覚障害者支援に関する研究発表目録2005

■ 学会等一覧

■ ヒューマンインタフェース分野の研究動向

 音声による視覚障害者のパソコン及びインターネット利用が一般的となった今,両者の間をつなぐ音声インタフェースの改善が研究領域として広がりを見せている。漢字を説明する「詳細読み」の改善に関しては,特総研が説明表現の語彙と親密度に注目しているのに対して1),千葉大では漢字の意味情報を用いた仮名漢字変換手法を提案している2)。情報取得の効率を上げるため音声を最高速に設定している視覚障害者は多い3)。既存の最高速を超えてどの程度の速さまで音声を聴取可能かを調べる実験が行われ,その結果に基づいた音声合成システムの改良が東大を中心に進められている4),5)。ほかに,表の読み上げ手法に関する考察6),視覚障害者によるプレゼンテーションソフトの利用状況7),Web利用環境の実際的調査8)なども,実用に近い研究としてその進展と成果の波及が望まれる。

 聴覚による空間認知能力を活用する研究では,聴覚ゲームへの応用9),10),歩行環境の認知11),環境認知能力の訓練12)があった。聴覚ゲームには二つのグループが取り組んでおり,いずれも仮想音源を用いて提示される標的をプレーヤがハンマで叩き落とすものである。東北大研究は既に製品化まで進んだ。一方,芝浦工大では音の種類によるプレーヤの成績を調べている。

 触覚ポインティング操作の実用性を調べる研究が行われている。電通大では,視覚障害者に触覚ディスプレイ上でポインティングとスクロール操作を行わせ,キー操作と操作性を比較した13)。NHK放送技研では,点接触型触力覚提示装置を使って3次元ポインティング操作を行わせた14)。なお,触覚関係は感覚代行分野での発表が多いのでそちらを参照されたい。

 継続して行われている研究として,筑波技大・九州大による科学文書読み取りシステムと15),日大による数式読み上げシステムがある16)。両者はInftyProjectのサブ課題であり,その一部は既に製品あるいはフリーソフトとして実用化されている。数式読み上げシステムに触覚ディスプレイを組み込んで,利用性の向上が図られている。横国大では点字楽譜自動生成システムの改良を進めている17)。

 情報アクセシビリティとユニバーサルデザインの観点から,色の視認性に関する研究が増えている。見やすい背景色と文字色の組み合わせを実験的に調べた研究や18),色覚障害に考慮して,また輝度比の観点から見やすい色の組み合わせを自動的に生成するシステムが開発されている19),20),21)。視覚を用いた新しい研究では,注視点情報を拡大読書器に応用しようという試みがあった22)。

  1. 渡辺哲也・渡辺文治・岡田伸一・山口俊光・大杉成喜・澤田真弓、2005、スクリーンリーダの漢字詳細読みに関する研究−試作した詳細読みによる漢字書き取り調査−、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-47.
  2. 西田昌史・堀内靖雄・市川熹、2005、視覚障害者のための意味情報に基づく仮名漢字変換、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-23.
  3. 渡辺哲也, 視覚障害者用スクリーンリーダの速度・ピッチ・性別の設定状況, 電子情報通信学会論文誌D-I, Vol.J88-D-I, No.8, pp.1257-1260, August 2005.
  4. 浅川智恵子, 高木啓伸, 井野秀一, 伊福部達,視覚障害者への音声提示における最適・最高速度,ヒューマンインタフェース学会論文誌,Vol.7 No.1 2005.
  5. 大島一恵・西本卓也・渡辺隆行、2005、視覚障害者用早口合成音声による慣れの効果、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-43.
  6. 松永充弘・大森久美子・堀晋久・菅原昌平、2005、音声による表の読み上げ手法に関する一提案、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-24.
  7. 長岡英司・加藤宏・大武信之・藤井亮輔・金堀利洋・小野瀬正美、2005、重度視覚障害者によるプレゼンテーションの現状、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2004-64.
  8. 渡辺隆行・梅垣正宏・植木真・安藤昌也・表あい・村岡雅子、2005、日本の視覚障害者用ウェブ利用ソフトの機能調査、ヒューマンインタフェース学会研究報告集、Vol.7、No.5、27-32.
  9. 鈴木陽一・岩谷幸雄・大内誠、2005、[特別講演]高精度仮想聴覚ディスプレイの構築とその視覚障害者応用、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-36.
  10. 石井宏長・印出政矢・大倉典子、2005、視覚障碍者向けゲームの開発、ヒューマンインタフェース学会研究報告集、Vol.7、No.5、23-26.
  11. 中野泰志・井手口範男・布川清彦・金沢真理、2005、視覚障害者の路地横断における車両音の効果−ハイブリッド車とガソリン車の音響比較−、ヒューマンインタフェースシンポジウム2005論文集、523-528.
  12. 塩瀬隆之・伊藤精英・間々田和彦・Shigueo Nomura・土永将慶・野島弥一・川上浩司・片井修、2005、2つの移動音源間の横断可能性知覚訓練システム、ヒューマンインタフェースシンポジウム2005論文集、257-260.
  13. 谷井通世・篠原正美・下条誠・島田茂伸・清水豊、2005、重度視覚障害者用ダイレクトマニピュレーション型触覚ディスプレイの操作特性、ヒューマンインタフェースシンポジウム2005論文集、237-240.
  14. 鈴木百合子・坂井忠、2005、触力覚提示装置による3次元仮想空間のポインティングにおける提示法の検討、ヒューマンインタフェースシンポジウム2005論文集、809-812.
  15. 金堀利洋・鈴木昌和、2005、視覚障害者のためのPDF科学技術文書読み取りシステム、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-2.
  16. 駒田智彦・山口雄仁・川根深・鈴木昌和、2005、音声インターフェースと触覚ディスプレーを組み合わせた視覚障害者の新たな科学情報利用環境、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-45.
  17. 後藤大輔・田村直良・後藤敏行・飯田浩平・倉林有、2005、楽譜記述言語MusicXMLから点字楽譜を生成する自動翻訳システム、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-48.
  18. 齋藤大輔・斎藤恵一・納富一宏・斎藤正男, 黒色背景と白色背景でのWebセーフカラーの視認性, FIT 2005, 257-258.
  19. 神宮司雄祐・渡辺喜道、2005、色の組合せに基づくアクセシビリティ向上のためのWebページ閲覧支援ツール、電子情報通信学会技術研究報告、WIT2005-1.
  20. 神祐介・村上存、2005、多様な色覚特性に対する識別性を考慮した色のユニバーサルデザイン手法、ヒューマンインタフェースシンポジウム2005論文集、244-248.
  21. クーパーエリック・山本宏紀・松山高明・福永義昭・亀井且有・篠田博之、2005、カラーバリアフリーウェブページデザインのためのデザイン構成を保持する色彩再配置システム、ヒューマンインタフェースシンポジウム2005論文集、249-252.
  22. 前田義信・小熊隆史・石黒隆志・宮川道夫・玉木徹・堀潤一、2005、注視点追跡機能を有する電子拡大読書器の検討、ヒューマンインタフェースシンポジウム2005論文集、241-244.

■ 教育・リハビリテーション分野の研究動向(渡辺文治@七沢ライトホーム)

 この稿では、教育・リハビリテーション部門の視覚障害者の情報アクセス技能の向上に関連する研究を中心に述べる。教育や指導法、教材やテキストに関するもの、機器や支援システムの開発、基礎研究等が主なテーマである。  日本特殊教育学会では、重複障害関連を除く約30題中12題ほどがこれに該当する。今年度も、視覚障害児・者に触覚を通して図や立体などの情報を伝えることに関する研究が多くみられた1)〜5)。また、算数教科書に関して文部科学省著作教科書と通常学級で学ぶ盲児が実際に使用したボランティア作成の教科書との図の違いに関する研究などもあった6)。また、点字に関する研究もわずかながらあり、過去に発行された盲学校の国語点字教科書の触読導入教材に関する研究7)や、司法試験に関して解答時間に必要な時間延長率やデイジーを使用する方式の提案8)等の発表もあった。視覚障害学生に必要な資料を即座に提供するための研究9)もあり、これまでの点字・点図だけではなく、電子データなどの必要性が高まっている状況が報告された。PCに関連しては、小学3年の盲児に対する指導事例10)や視覚障害者用スクリーンリーダで使用されている漢字(第1水準)の詳細読みに関する報告11)12)などがあった。

 弱視教育42巻4号〜43巻3号(日本弱視教育研究会2005)では、12題中5題が該当する。現場の教員が中心であるため、内容はほとんどが教育・訓練場面で使用する教材・教具(触覚・拡大教材)の作成等に関するもの13)〜16)である。視覚障害者用機器の開発に関するもの等もみられる。

 第6回日本ロービジョン(以下LV)学会学術総会と第14回視覚障害リハビリテーション研究発表大会合同会議は連携をテーマに開催された。LV学会員は、眼科医やORT(視能訓練士)が多いため、全体としてはLV者の処遇や検査に関する発表が多い。

 指定講義で関連するものは、「ウェブアクセシビリティとスクリーンリーダ」、「音声によるweb活用」、「中途失明と点字指導」など。口頭・ポスタ−発表では、70題あまりのうち、20%程度が視覚・聴覚・触覚を通して情報を得ることの関連している(レンズ・音声・PCなど)。音声を使用するものはPCに関連したものである。最近広く利用されているPDF文書のアクセシビリティに関する報告18)〜20)もあった。また、PCの学習支援に関する報告21)22)もあった。その他は、視覚・聴覚に関連しての基礎的な研究調査等23)〜29)である。LV学会と共催のためか、触覚に関する発表は少ないが、身近な課題である、点眼容器の識別用シールに関する報告30)などもあった。

    <日本特殊教育学会第43回大会発表論文集>

  1. 宮崎善郎・香川邦生、立体と平面との対応関係に関する研究 ー基本形態と点図形との対応関係に注目してー、p590
  2. 楠林拓、CAD,CAMシステムを利用した児童用触察教材の開発 ハプティックスと形態の関係についての研究、p591
  3. 増岡直子・佐藤知洋・大内進、立体物圧縮による全盲児の二次元的理解を促すための教材開発と指導実践,p388
  4. 黒岩聡、視覚障害を持つ生徒に適した理療科模型の作製について、p389
  5. 大内進・棟方哲弥・増岡直子・佐藤知洋、視覚障害者のための日本の絵画の「触る絵」翻案の試み、p692
  6. 牟田口辰己、通常の学級で学ぶ盲児の点字教科書ー算数科6年図形領域からー、p693
  7. 進和枝・牟田口辰己、盲学校点字教科書における点字触読導入教材、p589
  8. 藤芳衛・澤崎陽彦・村田拓司、司法試験短答式試験のユニバーサルデザイン 点字試験の試験時間延長率の推定とデジタル音声試験の可能性、p711
  9. 長岡英司・加藤宏、視覚障害学生に対する学習支援事業の試行 ー学習資料の即時的メディア変換ー、p712
  10. 千葉秀輝・間々田和彦、情報活用能力の育成を図るための指導実践 ー児童生徒の実態をもとに作成したパソコンの指導内容表の活用実践事例・全盲A君の場合ー、p588
  11. 渡辺文治・渡辺哲也・大杉成喜・澤田真弓・岡田伸一、視覚障害者のための詳細読みの検討 その2 ー教育漢字とそれ以外のJIS第1水準漢字の分析ー、p596
  12. 伊藤精英・岡本誠・秋田純一・小松孝徳、CyARM 触覚による環境探索支援装置の開発とその応用の可能性,p390

    <弱視教育42巻4号〜43巻3号>

  13. 金子健・千田耕基・大内進・田中良広・澤田真弓・新井千賀子・渡辺哲也・牟田口辰己・鳥山由子・佐島毅・柿澤敏文・太田裕子・加藤俊和・山田毅・柏倉秀克・大旗慎一、社会・理科拡大教科書作成に関する実際的研究(2)、弱視教育43巻第1号p10-18
  14. 佐藤知洋・増岡直子・久米祐一郎・大内進、「液晶ペンタブレットを用いた弱視児教育用塗り絵評価システム」の活用に関する研究、弱視教育43巻第3号pp10-16
  15. 近藤邦夫、自作教材ソフトを活用しての指導の工夫、弱視教育42巻第4号pp1-6
  16. 吉田雅幸、電子辞書を活用した国語学習への取り組みについて、弱視教育42巻第4号pp7-10
  17. 金子博・伊藤三千代・吉田治、視覚障害教育環境における拡大読書器の研究開発、弱視教育43巻第2号pp6-14

    <第6回日本LV学会・第14回視覚障害リハ研究大会>

  18. 音声ユーザのコンピュータ導入期の指導プログラムの開発、大財誠・氏間和仁・和田浩一
  19. 音声パソコンのテキストについての検討、小島紀代子山田幸男・羽賀雅世・清水美知子・大石正夫
  20. PDF 文書のアクセシビリティ 〜Adobe Acrobat7.0によるアクセシブルなPDF 文書の作成〜、山口俊光・渡辺哲也
  21. 音声ユーザに対するパソコンの基本操作学習用ソフトの開発 〜キーボードによるWindows の基本操作を中心に〜、和田浩一
  22. 続出発進行! IT キャラバン 〜新移動パソコン教室(IT バス)のご紹介〜、山口里子他
  23. 盲学校における美術鑑賞教育とコンピューターグラフィックス教育の実態調査、日野あすか
  24. ロービジョン者の視覚情報処理能力の検討 〜二重課題を用いた評価の試み〜、守本典子・山口知佐子・河本健一郎・和氣典二
  25. エッシェンバッハ光学製ワークルーペの倍率と作業距離、田辺正明・魚里博・辻一央
  26. 視野が狭いとき文字を大きくすると読みやすさは改善するか?、鈴木理子・小田浩一
  27. 移動の改善に関して遮光眼鏡が有効であった一例、山中幸宏・佐々博昭・佐々圭祐・橋本稔
  28. 視認性の高いマルチメディア教材の作成と評価、氏間和仁・和田浩一・小田浩一
  29. 視覚障害者の道路横断を支援する手指による触知標示の評価、高戸仁郎・武田真澄・田内雅規
  30. 点眼容器用識別シールの開発経緯、田尻聡・山本百合子・河嶋洋一・佐渡一成・山縣祥隆

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和文論文誌


福祉情報工学研究会

2005年1月

2005年3月

2005年5月

2005年7月

2005年10月

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論文誌


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■ 感覚代行シンポジウム

第31回大会

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Last updated: 2007年12月25日
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