視覚障害者支援に関する研究発表目録2004

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■ ヒューマンインタフェース分野の研究動向

 ここでは,2004年に発表されたヒューマンインタフェース分野の研究のうち,聴覚メニューと触図を中心に文献を紹介し,解説を加える。

 インターネット上のWeb情報を視覚障害者にも利用可能とするアクセシビリティの研究とともに,キー入力‐音声出力による情報探索を効率的にするユーザビリティの研究が各機関で進められている。(株)NTTデータのグループは,探索操作前にリンク項目の総数を提示するとともに,項目の前に番号を付加する手法を提案した1)。この手法を用いて実験したところ,操作時間が短くなる効果が得られた。その理由は,総数と項目番号の読み上げにより被験者は全体規模と残り項目数を把握でき,項目選択の戦略が変わったためと著者らは推察している。さらに,誤選択のため前のページに戻った際に,前回選択した項目番号まで読み飛ばせることも操作時間の短縮に寄与している。新潟大のグループは,階層構造と選択情報に注目してWebサイトの使い勝手を検討した2)。(株)リコーのグループは,複写機の聴覚メニュー操作を効率化するため,行き止まりを示す音アイコン,階層の再構築,項目説明機能の追加などを行った3)。平均迷い操作数を指標として評価したところ,階層の再構築と項目説明機能の効果と思われる改善が一部の課題で見られたが,逆に,再構築により項目名がわかりにくくなる問題も起きた。

 聴覚メニューに限らず,メニュー選択システム全般に重要なのは,適切な階層構造の構築と項目名,項目の提示順序である。これらがユーザの知識と一致するかどうかが,メニューの使い勝手を決定する。複写機の場合,階層構造・項目名・提示順序はメーカが決定できる。従って,これらを適切に構築するとともに,触図付きの説明書で操作前にユーザの学習を促すことで,操作効率を上げることができる。しかしWebページの場合,他機関が構築したサイトを変えるわけにはいかず,改善の手順は単純ではない。基礎研究の推進だけでなく,音声Webブラウザへの実装や,講習会等における成果の普及が必要である。また,階層構造をたどる情報探索方式のほかに,検索エンジン等を使った方式についても,今後は研究が必要かと思う。

 次に触図の研究を取り上げる。デジタルカメラの普及とパソコンの高性能化は画像の利用頻度を著しく高くし,Webページなどで視覚障害者がこれに遭遇する問題が増えた。さらに2001年以降,各社から触覚ディスプレイ製品が発売され,プログラムを組めば触覚実験が手軽に行えるようになった。これらが背景となり,触図の研究が増えたと考えられる。従来,触図は晴眼者が作成し視覚障害者へ提示する一方通行の関係だったが,近年の研究では,視覚障害者が作図・発信できる双方向にしようという発想が共通して見られる。 伊奈は,簡単なコマンドで線画を作成・出力できるプログラムと,ビットマップ情報を2値化して出力できるプログラム等を開発した4)。出力先は,触覚ディスプレイ(ユニプラン,OUV 3000),点図プロッタ(リコー,TZ100),立体コピーから選択できる。藤芳は,直線・円・四角形などの基本図形のほかに曲線補完法による複雑な図形などを作成し,触図対応の点字プリンタ(JTR,ESA721)へ出力するプログラムを開発した5)。座標値や寸法をコマンドで入力するので,視覚障害者自身が正確に作図できる点が特徴である。電通大を中心とした研究グループは,触覚ディスプレイ(KGS,DV-2)面を指で直接なぞって描画できるシステムを開発した6)。触覚提示部を6軸センサで支え,センサの出力値をもとに指の接触点位置を算出する仕組みである。触図に関してはほかに,公共の場所における触知図の読みやすさを心理学的見地から検討し,作成時のガイドラインを構築しようとする研究も興味を引いた7)。

 ペンや指でなぞる直接操作と,始点・終点・寸法などを数値で入力するコマンド入力はどちらも有効であると筆者は考えている。晴眼者が描画ツールを利用する際,全体構成には直接操作が適し,各図形の寸法と位置の微調整には数値入力が適している。触覚的描画においても同様に,段階ごとに適した描画戦略があるのではないだろうか。次に,出力装置を比較すると,点字プリンタ・プロッタには,点の大きさ・間隔などを自在に変化できる表現能力の高さがある。他方の触覚ディスプレイは情報を即座に変更できる点が優れている。それぞれの出力装置向けに作成した図を共有できるソフトが開発されれば,既存のプリンタ用触図を触覚ディスプレイでアニメーション化したり,逆に,触覚ディスプレイ上で視覚障害児が描いた絵をプリンタへ打ち出すなど,両者の利点を生かすことができる。触覚教材の充実にもつながるだろう。

 最後に2つのグループの研究をごく簡単に紹介する。東京大の中野らは,携帯電話のボタンの触覚的なわかりやすさについて,携帯電話メーカとともに一連の研究成果を発表している8),9),10)。静岡県立大の石川らのグループは,携帯電話やLinuxの音声化への取り組みを随時発表している11),12)。障害のある当事者の参加した研究グループが実用的な研究・開発に取り組んでいることを頼もしく思う。

  1. 松永充弘・大森久美子・遠藤淳・菅原昌平・高橋玲子, 2004, 音声ブラウザの利用を考慮したウェブリンクの提示に関する提案, 電子情報通信学会技術研究報告, WIT2004-43.
  2. 青柳真吾・林 豊彦・中村康雄・遁所直樹, 2004, 音声ブラウザを考慮したWebサイトのアクセシビリティ評価, 電子情報通信学会技術研究報告 WIT2003-48.
  3. 酒寄哲也・室井哲也,・鷹見淳一・加藤喜永・櫻又義文・呂彬・佐伯巌,・岡本明, 2004, 複写機における聴覚的階層メニューの検討, 電子情報通信学会技術研究報告 WIT2004-41.
  4. 伊奈諭, 2004, 視覚障害者の能動的図形画像コミュニケーションのための障害補償の試み, 電子情報通信学会技術研究報告 ET2003-91.
  5. 藤芳衛, 2004, 視覚障害者の触読図の作成を可能にするプロッタ・システムの開発, 電子情報通信学会技術研究報告 WIT2003-52.
  6. 谷井通世・下条誠・篠原正美・清水豊, 2004, 手指操作フィードバックによる画面操作が可能な触覚グラフィックディスプレイの開発, ヒューマンインタフェースシンポジウム2004 論文集, 321-324.
  7. Kwok, Misa Grace・福田忠彦, 2004, 感覚特性に基づく触地図作成法の提案, 電子情報通信学会技術研究報告 ヒューマンインタフェース学会研究報告集, Vol.6, No.1, 55-62.
  8. 中野泰志・布川清彦・松丸久美子・前田晃秀・大河内直之・苅田知則・中野聡子・福島智・松岡政治・大成直子・竹中和正・豊田興太郎, 2004, 触ってわかりやすい携帯電話のボタン形状とは?−全盲を対象とした触知要因の分析−, ヒューマンインタフェースシンポジウム2004論文集, 721-726.
  9. 布川清彦・中野泰志・松丸久美子・前田晃秀・大河内直之・苅田知則・中野聡子・福島智・松岡政治・大成直子・竹中和正・豊田興太郎, 2004, 携帯電話ボタンのわかりやすさに影響する触知要因は視覚障害の有無で異なるか?, ヒューマンインタフェースシンポジウム2004論文集, 727-732.
  10. 前田晃秀・中野泰志・布川清彦・松丸久美子・大河内直之・苅田知則・中野聡子・福島智・松岡政治・大成直子・竹中和正・豊田興太郎, 2004, 携帯電話のボタンのわかりやすさと操作効率の関係に関する分析, ヒューマンインタフェースシンポジウム2004論文集, 733-738.
  11. 湯瀬裕昭・向山大輔・石川准, 2004, 視覚障害者向けの入力支援機能を備えた携帯電話用音声ブラウザの試作, 電子情報通信学会技術研究報告, WIT2004-14.
  12. 石川准・工藤智行, 2004, Linuxスクリーンリーダの開発 −AUI/BUI OSの実現−, 電子情報通信学会技術研究報告, WIT2004-38.

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Last updated: 2007年2月26日
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