本研究では, 点字熟練度の異なる視覚障害者を対象に点字ディスプレイと点字用紙で文章触読実験を実施し,その様子を分析した.これまでの結果から点字熟練度が高い人ほど,2条件間の触読時間差が大きいことがわかっている.その要因として点字ディスプレイではキー操作に伴いキーまでの指の移動時間が増大することや,点字の読み方の一種である両手2行読みが点字ディスプレイではできないことが挙げられている.
 本年度は新たに6名の参加者を対象に実験を行った.過去の実験参加者を合わせ計14名の分析データから点字熟練度の異なる参加者の触読動作パターンの違いと両手2行同2行同読みが触読時間に与える影響を明らかにすることを目的とした.その結果,参加者は2条件間の移動時間の増加率の違いから3つのグループに分類され,その3つのグループ間には触読動作のパターンに違いが見られた.また両手2行同時読みによる触読速度への影響は移動時間の増加への影響が大きいことが分かった.
 視覚障害者が駅などの公共施設の地図情報を得る方法として, 触知案内図を用いる方法がある. 本研究では, 触知案内図のような平面の触地図よりも立体模型を用いる方が触察に優れているのではないかと考え, 3Dプリンタを用いて駅構内の立体模型を作成した. 作成した東京駅の模型は, 展示会で視覚障害者に実際に触っていただき, その場で簡単な評価を得た. また, 今後模型と触地図の比較実験を行うことも想定して,模型に対応する触地図も作成した.
 既存の触地図自動作成システムでは,ランドマーク,点字,駅等を手動で編集する必要がある.そのため,地図画像を入力として触地図を出力する新たなシステムを開発が求められる.本研究ではGANの一種であるpix2pixを用いて,道路の触地図の自動生成を試みた.しかし,作成したモデルは過学習の問題があり,汎用性が確認できなかった.この問題を解決するためには,入力画像を増やしたり,損失関数のパラメータを調整したりして学習方法を見直す必要がある.
 視覚障害者はヨガを行う際,ポーズを目視で確認することが困難であるため,チャレンジド・ヨガではインストラクタの口頭によるポーズの説明が必要である.しかし,口頭による説明だけでは,ポーズのとりかたを十分に理解することは困難である.視覚障害者が物体形状を理解するためには,触察が適していることから,本研究ではポーズの触図と3D模型を制作した.その評価として触察によるポーズの再現性について晴眼者を対象に実験を行った.その結果から音声による説明・触図・3D模型でポーズの再現性について差は生じるのか検証した.
Last updated: 2024年9月2日
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