視覚障害者が物体形状を理解するためには, 対象物を手で触れて確認する「触察」が適している. 特に建築物は大型かつ複雑であることから, 全体像を把握することが難しい. そこで本研究では 3D プリンタを活用し, 建築物の立体模型を制作した. 模型制作は 3Dデータの作成, スライス, 3D プリント, 仕上げの手順で実施した. 制作した模型は, 視覚障害者へ解説をしながら触察していただく「触察会」の中で評価された. 参加者からは肯定的な意見を多くいただいた.
 視覚系の疾患には光のコントラスト感度を低下させるものがある. これは明るさ知覚のダイナミックレンジ(DRL)に大きな影響を与える. DRL は, 識別可能な輝度の最高値と最低値の比として定義される. DRL の臨床的な測定は長時間かつ高価な装置を必要としていた. そこで堀口らは, 短時間で簡単に DRL を測定できるソフトウェアを開発した. この ソフトウェアを使って,本研究では, 健常者 41 人に明るさ知覚ダイナミックレンジ検査を行った. その結果, 背景の明るさが明るくなると DRL が小さくなることが確認され, 先行研究と一致した. また, 先行研究で算出された DRL よりも少し大きな値が算出された. 原因としては, 実験参加者の年齢が若いことや使用端末の違いが考えられる.
 本研究では点字熟練度の 異なる視覚障害者に点字ディスプレイと点字用紙で点字を触読してもらい,その様子を分析した.その結果,点字熟練度が高い(触読速度が速い)人ほど,点字ディスプレイ条件では点字用紙条件よりも触読時間が伸びることがわかった.この理由は二つ考えられる.一つ目は,点字用紙では両手2行読みが可能であることに対して,点字ディスプレイでは1行ずつしか触読できないことである.二つ目は,点字ディスプレイでの触読で必要な行替え時のキー操作のため,手の移動時間がかかってしまうことである.
 視覚障害者が漢字の形を正確に想起できる手段として,本研究室の荒田らは漢字の構成読みを開発した.その研究結果は Web アプリケーション「構成読みの検索」として活用されている.しかし,このアプリケーションには,片仮名の文字化けや JIS 第 3・第 4 水準漢字の非対応などの問題がある.そこで本研究ではこれらに対して改良を施した. その改良版のアプリケーションを視覚障害者の方に試用していただいたところ,「このサイトは視覚障がい者にとって,唯一無二の漢字辞書です.」や「見えていたころも書けなかった漢字が頭の中で描けるようになった.脳トレにも有効」といった肯定的な意見をいただいた.
Last updated: 2024年9月2日
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