視覚障害者は視覚情報の識別が困難なため、日常生活や社会生活において多くの制限を受けている。そこで、視覚情報を触覚情報に変換して提示する技術の研究開発がされてきた。これにより、文字情報の触覚提示は容易になってきたが、画像や動画を自由に扱える機器は少ない。本研究では、エンターテインメントや学習教材など様々な用途に応用可能なシステムにするため、カメラで撮像した視覚情報をリアルタイムで触覚情報に変換し、点図ディスプレイという触覚ディスプレイ製品に出力するシステムの開発を行った。さらに、ユーザが自ら見たいものを見られるよう触覚情報を制御できるようにするため、視覚-触覚変換条件の制御装置を組み込んだ。
 既存の触地図自動作成システムでは、点字ブロックなどの歩行に関するバリア情報を記載することができない。さらに、広範囲の触地図を作成すると表示が混みあい、触知が困難になるという問題点がある。そこで本研究では、歩行に役立つランドマーク情報を登録可能であるOpenStreetMapデータを地図データとし、縮尺に応じてマップファイルを切り替える機能を実装した触地図自動作成システムを開発した。マップファイルを三つ作成し、ユーザが選択した縮尺に応じて切り替えを行う。以上のことから、歩行に役立つ情報を記載でき、なおかつ縮尺に応じた表示内容の触地図画像を自動で作成することが可能になった。
 視覚障害者が、“触知棒グラフ”のデータを正しく読み取るには、棒グラフの棒が背景及びグリッド線と明確に区別できる必要があり、グラフの棒は何らかのパターンで塗りつぶしてあることが求められている。しかし、立体コピーで作成する触知棒グラフにおいて、そのパターンは定められていない。そこで本研究では、立体コピーで作成する触知棒グラフにおいて、どのような塗りつぶしパターンが適しているかを実験を通して検証した。実験では、点の間隔・大きさを変化させた様々なドットパターン、そして、色による塗りつぶしの12条件を用意した。その結果、立体コピーで作成する触知棒グラフにおいて、黒、濃い灰色による塗りつぶしが適していることがわかった。
 電子辞書内の漢字辞典には音声の出力機能がなく、視覚障害者が単独で漢字を調べることは難しい。そこで、同研究室の岸・鈴木らは視覚障害者が使うことができる漢字検索アプリを開発した。しかし、このアプリの検索機能の漢字の部品による検索件数は電子版の漢字辞書に比べて少ない。そこで、本研究では、アプリの検索件数を電子版「漢字源」の検索件数に近づけることを目標とした。「漢字源」と本アプリの6画から10画までの部品の検索の結果を比較し、アプリの精度が低い原因を調査した。その結果、原因は、「漢字の分解の段階が低い」、「同じ読み方の別の漢字の表示されない」、「アプリ内の漢字データベースに登録されていない部品を含む漢字が表示されない」、の三つによるものだとわかった。
 専用のシールにタッチすると録音した音声メモが再生される機器が発売されている。そのひとつであるTouch Memoのユーザから、音声メモを他のユーザと共有したいという要望があった。その要望を請け本研究では、1台のTouch Memoで録音したデータをPCにコピーし、複数のTouch Memo にペーストすることで音声メモを共有した。音声メモの共有方法を依頼者に伝え、音声データを共有した Touch Memo を4人の視覚障害者の方々に利用してもらい、感想及び、新たな要望を頂いた。
Last updated: 2017年2月7日
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