視覚障害者のグラフ利用においては、グラフを形作る円や棒の幾何学的形状を触覚で精確に読み取る必要がある。今回、百分率を表す円グラフと帯グラフを取り上げ、角度と長さのどちらが触覚で割合を把握するのに適しているか実験を通して調べることにした。実験では、様々な割合で2分割した円・帯グラフを用意し、一つ目の要素の割合を回答してもらった。その結果、円グラフの方が読み取り誤差が少ないことが分かった。また、円では0、25、50、75%、帯では0、50%が読み取りの基準位置となっており、その周辺で読み取り誤差が少ないことが分かった。
 触地図では道路の幅の違いを複数の線幅によって表しているため、線幅を識別できるかどうかが重要である。そこで本研究では、立体コピーにおける線幅の弁別閾を一対比較実験によって調べた。大小の正答率が90%以上となる基準の線幅との最小の差を弁別閾とし、各線幅に対して求めた結果、弁別閾は基準線幅により変化し、線幅が2mm以上では弁別閾は線幅に比例する傾向がみられたが、線幅が2mm未満では比例していなかった。
 視覚障害者のタッチパネル操作において、音声や物理的手がかりによる支援が必要である。そこで機器周辺の触覚ガイドという簡単な手法で操作を容易にできないかと考えた。触覚ガイドの効果を検証するため、ガイド有りの場合と無しの場合で、指示されたアイコンを視覚を使わずに探索し、発見するまでの時間を測定する実験を行った。その結果、触覚ガイドの有無による比較で、探索時間に有意差は認められなかった。これより今回の実験の条件下であれば、音声のみで視覚を使わないタッチパネル操作が十分可能となることがわかった。
 視覚障害者向けの触地図を正確かつ迅速に読み取るためには、情報の取捨選択が欠かせない。また、触地図では地図の手前に現在地を設定する場合が多いため、地図の整置も必要となる。これらの操作は経験的に有効とされているが、実証的な報告は見当たらない。そこで本研究では、経路探索には不要な脇道や道路の折れ曲がりを省略した簡略化の効果と、地図の手前に現在地を設定する整置の効果を、被験者に触地図の経路をたどらせる実験によって検証した。その結果、触地図の簡略化が探索速度の短縮に有効であることがわかった。一方で、整置による探索速度の短縮の効果は見られなかった。
 触地図の面積が探索性に及ぼす影響を調べるため、面積が異なる4種類の触地図を用いて、標的を発見するまでの探索時間を計る実験を行った。その結果、面積が大きくなるにつれて標的の探索時間が長くなることが分かった。その原因として考えられるのは、面積が大きくなるにつれて標的までの距離が長くなることである。そこで、探索開始地点から標的までの距離を指標として探索時間に差があるかを調べた。その結果、面積の小さい触地図では探索時間に差はなかったが、面積の大きい触地図は探索時間に差があった。
 触覚のみで日付の設定と星座の認識ができる触る星座早見盤を試作した。 この早見盤では日付目盛りと時刻目盛りを触察できるように表示した。星座の数を限定し、星座の寸法や星座間の距離を調節した。 日時の設定にはどのくらいの日付の刻み値が適切かを調べるため、刻み値1日、2日、5日の3種類において、設定誤差、操作時間に違いがあるか比較した。その結果、設定誤差は小さい方から2日、5日、1日の順になり、操作時間は短い方から5日、 2日、1日の順になった。また統計的検定を行ったところ、5日刻みと2日刻みが1日刻みに対してのみ誤差、操作時間ともに有意に小さい値となり、日付に適した刻み値であるとわかった。
Last updated: 2017年2月7日
Copyright (C) 2017 渡辺哲也