触図に関する国際会議

Tactile Graphics 2005 参加報告

■ 概要

 12月1日・2日の2日間,英国第2の都市バーミンガム市内のホテルを会場として,触図に関する国際会議が開かれた。2000年,2002年に続き3回目の開催となる。主催者はRNIB(Royal National Institute for the Blind,英国盲人協会)の1部門であるNCTD(National Centre for Tactile Diagram,触図のための全国センター)*。両機関についての詳細は,2004年の報告「英国における触図作成機関に関する報告」を参照してほしい。

 基調講演:主催者であるサラ・モリー・ウィルキンソン氏**と利用者の立場からクレア・ウィルソン氏が講演した。情報への平等なアクセスの一環として触図へのアクセスが重要であること,触図全般に関する一般的な説明がなされた。この中の報告によれば,参加者は28カ国から219名とのことだった。日本からの参加者数は,渡辺の知る範囲では13人。その所属は,早稲田大学,日本点字図書館,ケージーエス株式会社,筑波大学,そして国立特殊教育総合研究所である。

 口頭発表:口頭発表は三つの会場で平行して進行し,合計33件の発表があった。内容はローテクからハイテク(コンピュータ関連技術を活用したもの)まで幅が広い。ハイテクものでは,バーチャルリアリティ技術を用いたもの,触図と音響を組み合わせたシステムなどがあった。渡辺自身は触覚ディスプレイの盲学校での利用について紹介した。ローテクあるいは既存の製作器を使った内容では,子ども向けの触る絵本,触地図の作成,美術館・博物館の説明の触図化,理解しやすい触シンボル,触シンボルの標準化,などの話題があった。発表者の説明能力には差が大きいと感じられた。

 展示:展示会場には,各国の団体,企業などから27件の出展があった。会議に参加して最も役に立つのは,この展示かもしれない。触図について話だけを聞いても完全には理解しきれない部分があり,必ず実物を触ってみる必要がある。様々な触図(立体コピー,サーモフォーム,点図,樹脂印刷…),触覚教材,触れる立体的造形物,布地を使った触絵画など様々な触覚提示物を網羅できる。触図について初めて知る人にとって有益なだけでなく,ある程度知っている人でも,日本では見かけない素材を知る機会になったかと思う。展示会場に併設して,6件のポスター発表も行われた。

 ワークショップ:本会議に先立ってワークショップが開かれた。場所は,バーミンガム市内のRNIBの会議室。目を閉じて触図を触り,それが何かを判断させる,新聞の中から図を1つ選び,それを触図化する際に何を残し,何を追加するか考えさせるなど,実際の作業を通じて触図について理解を深めさせるコースなど4種類が開かれた。

 次回の開催についてはまだ何も決まっていないが,主催者によれば肯定的なアンケート回答が多かったことから,おそらく次回の会議開催も期待できるだろう。NCTDのメーリングリストに入っておけば,会議開催について早めに情報を得ることができる。

*NCTDは,以前は英国ハートフォードシャ大学にあったが,2005年の4月にRNIBバーミンガムに移転した。

**モーリー・ウィルキンソン氏は,視覚障害者向けのWindows入門書の出版と普及によりスティービー・ワンダー賞 (Stevie Wonder Vision Awards) を1998年に受けている。渡辺は,その日本語版を作成し,1998年に視覚障害情報機器アクセスサポート協会より出版した。

触る絵本。晴盲共用品 触る山脈地図 様々な触覚教材(人の体を示す立体コピー,山と海の立体模型,モーター原理の模型,木・布などの触素材) 真空成形された建物正面の模型 触ると説明文が聞こえるDigitalTalkingBook。写真の図は人体の解剖図

左上から順に,写真1:触る絵本。晴盲共用品,写真2:触る山脈地図,写真3:様々な触覚教材(人の体を示す立体コピー,山と海の立体模型,モーター原理の模型,木・布などの触素材),写真4:真空成形された建物正面の模型,写真5:触ると説明文が聞こえるDigitalTalkingBook。写真の図は人体の解剖図。写真は,日本点字図書館の和田勉氏よりご提供いただきました(下の参考文献を参照)。

■ インターネット情報

■ 参考文献


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Last updated: 2009年1月9日
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