コンピュータグラフィクスと対話技術に関する国際会議

SIGGRAPH 2004参加報告

■ 報告

 映画「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」をご覧になった方の中で,ミナス・ティリス城での戦い(大きな象がたくさん出てくる)のシーンがどうやって撮影されたか興味をもった方はいないだろうか? 「スパイダーマン2」で,スパイダーマンがニューヨークの地下鉄の暴走を止めるシーンはどうだろうか? これらは皆,実写を元にコンピュータグラフィクス(CG)で作り上げられている。このCGの作り方を知ることができるのがSIGGRAPHの国際会議である。

 SIGGRAPHとは,米国計算機学会(Association for Computing Machinery: ACM)が擁する34の研究会(Special Interest Group: SIG)の1つで,コンピュータグラフィクスと対話技術を専門に扱っている。第31回目を数える国際会議は,2004年8月8日から12日の5日間,ロサンゼルスのコンベンションセンターで行われた。 この会議の最大の特徴は,参加者層が大学や研究所などの研究者に留まらないことであろう。冒頭で紹介したようにCGは既に実用段階の技術として映画やテレビでふんだんに使われており,これを作成する会社(Sony Pictures,DreamWorksなど)やCG技術者を養成する学校,CGに必要な強力な計算力をもつグラフィックボードのメーカー(nVIDIA,ATIなど),役者の体の動きを計算機に取り込むモーションキャプチャシステムのメーカー・販売者,そしてCGを使ったアニメーションやインスタレーションを行う芸術家たちが一堂に会している。関係者に聞いたところ,登録者数は3万人らしい。一般的な学会が数百からせいぜい数千人の規模なのに比べて桁違いに多い。この登録者が毎日参加したとすると,5日間でのべ10万人は軽く越える。この数字は,国際福祉機器展の3日間の参加者数にも相当する。

 当然,会議・展示の内容も種類が多い。一般的な学会で見られる口頭発表,講演,ポスター発表のほかに,対話技術とこれを利用した芸術作品のデモンストレーション(Emerging Technologies),芸術展示(Art Gallery),コンテストを勝ち抜いたコンピュータアニメーション及び視覚効果の作品群を見ることのできる映画館(Animation Theater),CG制作会社が求職者へ説明を行う場(Job Fair)など,盛りだくさんである。これに,大広間を会場とした企業展示が加わる。多少無理があるが国内の学会と比較してみると,バーチャルリアリティ学会(デモンストレーション・発表)とその芸術展示(インスタレーション),産業用バーチャルリアリティ展とコンピュータソフト展示会,そして就職フェア,これらすべてを1つの会場に集めた様相である。

 筆者の当初の目的は新しい対話技術を見ることだったので,Emerging Technologiesを最初に見て回った。ここには,審査を通過した30の技術・作品が展示されており,そのうち3分の1を日本の大学・研究所が占めている。ユーザがバーチャル空間内でどちらの方向へも進めるCirculaFloor(筑波大),センサーでありかつくすぐりアクチュエータである房(ふさ)が横臥したユーザの体表面を移動するTickle Salon(Erwin & Driessens),ベルトでつり上げたユーザが泳ぐ動作をすることで仮想空間内の太平洋を横断させるSwimming Across the Pacificなど,新しいだけでなく観客を笑わせてくれるシステムも多かった。

 触覚関係では,センサー層の変化をCCDカメラで読み取り,押圧だけでなく力の向も計測できるGelForce(東大),形状記憶合金アクチュエータ(SMA)を使ってマトリクス状に並べたピンを上下させる3次元触覚ディスプレイPopUp!など,支援技術としての可能性が高い新技術も見られた。

 この会議は,技術は全くわからないという人も楽しむことができる。Emerging Technologiesは,技術がわからなくても,実際に触ってインタラクションを楽しめばよい。芸術展示(Art Gallery)で感心するのもよい。映画(Animation TheaterとElectronic Theater)やでは,CGの表現能力の高さに感心するだけでなく,技術をすっかり忘れて,ほのぼのとした作品,ホロリとさせられる作品,笑わせてくれる作品,含蓄のある作品,前衛的な作品を見て楽しむことができる。

 難を言えば参加費が高いことだろうか。参加形態はフルカンファレンス,カンファレンスセレクト,エグジビションプラスの3種類に分かれている。会議のすべてのプログラムに参加できるフルカンファレンスの参加費は,事前登録,ACM会員という最も安い条件でも$700($1=110円で換算して7,7000円)である。これは,一般的な国際会議の2倍ほどの値段である。(非会員の当日払いだと$950にもなる!)画像処理の専門家ではない筆者にとっては,講演以外のほとんどのプログラムを体験することができるカンファレンスセレクトがちょうどよい選択だった(それでも,事前登録,非会員で$240だった)。 近い将来,このレベルの高い国際会議で技術展示できるような研究をしたい,というやる気をおこさせてくれる会議参加体験だった。

会場の建物「コンベンションセンター」 エマージングテクノロジ:Swimming Across the Pacific エマージングテクノロジ:Tickle Salon 求職の案内 アニメーション シアター 企業展示におけるデッサン教室 企業展示における手話通訳サービスの様子

左上から順に,写真1:会場の建物「コンベンションセンター」,写真2:エマージングテクノロジ:Swimming Across the Pacific,写真3:エマージングテクノロジ:Tickle Salon,写真4:求職の案内,写真5:アニメーション シアター,写真6:企業展示におけるデッサン教室,写真7:企業展示における手話通訳サービスの様子

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Last updated: 2005年11月27日
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