ICEVI Europe参加報告

■ 報告

 視覚障害者教育のための国際評議会(ICEVI: International Council for Education of People with Visual Impairment)が開催するヨーロッパ会議に参加した。ICEVI は1952年に設立された専門的非営利団体で,UNICEFとUNESCOにも認知されている。その使命は,地球上の全視覚障害児・者の教育機会の増進である。ICEVIは世界を7つの地域に分けており,ヨーロッパ地域は,東西ヨーロッパのほかにロシアも含めて約40ヶ国をカバーしている(日本は,同評議会の東アジア地域に加盟している)。

 5年ごとに開催される会議は今年で5回目を数える。会場はドイツ連邦共和国ザクセン州(旧東ドイツ地域)の工業都市ケムニッツにあるケムニッツ工科大学だった。本会議は2005年8月15日から18日まで開かれた。会議の概要について事務局に尋ねたところ,参加者数(事前登録者数)は約350人,参加国数は10から15ヶ国とのことだった。ICEVI EUROPE以外の国では米国からの参加者が少数ながらいた。視覚障害のある参加者数は20数人と聞いた。会場を見回したところこの数はおおよそ合っていたように思う。

 会議は基調講演,パラレルで進行する口頭セッション,ポスターセッション,企業展示からなる。基調講演は会期中の4日間,毎朝2人ずつ,その日の主たるテーマについて専門家からの話があった。8つのテーマは,評価,ロービジョン,専門性,ICT(情報通信技術),O&M(歩行訓練)と実生活能力,ADL,社会的能力,家族であった。口頭セッションは5つの会場に分かれ,午前・午後とも3題ずつ発表があった。ポスターセッションは建物のロビーを会場として,1日当たり10〜20件程度の演題が紹介された。昼休みの2時間とその他の休憩時間には説明者がポスター脇に立った。基調講演と口頭セッションには,英語,ドイツ語,ロシア語の通訳が付いた。商品を展示している企業は15社あった。Tieman, BAUM, HumanWare, ALVA, Papenmeierなどの点字ディスプレイ・拡大読書器メーカー・販売者のほかに,触覚の教材教具も数社が展示していた。携帯電話の液晶画面を音声出力または拡大表示できるソフト(Tiemanの商品)は興味深かった。

 ICTと職業訓練を中心に口頭発表を聞いた。RoboBrailleというプロジェクトは,利用者から文書ファイル(テキスト文書,リッチテキスト文書,Word文書,HTML文書)をサーバーにメールで送ると,点訳したファイルまたは音訳したファイル(WAVファイル,MP3ファイル)をメールで返送するシステムである。この発表に対して会場から,点訳ファイルを送られても点字プリンタがないと使えないのでは,という意見があった。点字印刷した紙を郵送してくれるのならば,高い点字プリンタを購入できない個人にとって便利だと思う(日本では,この方法を愛媛大学が試行中である)。別の発表では,大学で学ぶロービジョン者のために,デジタルカメラとパソコンの組合せを拡大読書器として使う案が提案された。この組合せを使って,階段教室前方の席から黒板の文字をどの程度拡大できるかを試した例が紹介された。一般向け商品を使う点で実用性の高い方法である。

 職業訓練に関する話題では,差別禁止法だけでは視覚障害者の就職には不十分という意見(ドイツ),企業での労体験(インターンのようなもの)をしたグループから就職にこぎ着けた人が出た話(オランダ)などを口頭発表で聞いた。さらに,視覚障害者が就職する際に支援機器購入のための助成金制度がイスラエルにはないがギリシャにはあるという話は,口頭発表に対する会場からの意見として聞くことができた(日本には助成金制度がある)。ICTや実践などの新しい話には出会わなかったが,教育・雇用などの制度・学校数等についてヨーロッパ各国の情報を集めるにはよい機会だと感じた。

 視覚障害者教育のための会議ではあるが,視覚障害者への情報保障(電子テキスト,点字印刷,拡大印刷)に関する記載は会議の案内にはなかった。この点を事務局に尋ねたが,特に保障はしていないとのことだった。視覚障害のある参加者から要望が来ないかと尋ねてみたが,これまでのところないという返事だった。

 会場で出会った2人の視覚障害者にこの話題を尋ねてみた。1人目は付き添いのいる女性の参加者である。

 ―プログラム,概要を事務局に要望しましたか?

 ―プログラムは会議のWebサイトで見られます。ただし,PDFファイルですが。概要はサイトには出ていないので,事務局に送付を要望しました。

 ―概要を点字印刷して持ってこないのですか?

 ―点字印刷すると大量になるので持ってきません。

 2人目は,点字用紙を持ち,単独で行動していた米国からの参加者(男性)である。

 ―プログラム,概要を事務局に要望しましたか?

 ―参加申込み時から要望してきましたが,なかなか送ってきませんでした。結局,会議当日まで送ってきませんでした。会議初日に事務局を訪ねましたが,用意されていませんでした。2日目になってようやくプログラムのみの点字印刷物を受け取ることができました。

  ―米国とヨーロッパとでは情報保障への対応で違いがありませんか?

  ―対応者による違いだと思います。この会議の直前に,スロバキアで開かれた盲ろうに関する会議(6th European Conference of Deafblind Internationalを指すのだろう。European Blind Unionが主催)に参加しましたが,そこでは全て用意されていました。

 全体を通して,新しい話題を聞くことより,制度について各国の様子を知ることや,他国のキーパーソンとの人脈を作ることに会議の意義があると感じた。次回の会議は,アイルランドのダブリンで開かれると聞いた。

 詳しい内容は,下の発表原稿をご参照下さい。

会場の建物と参加者たち 基調講演-ロービジョンについて 口頭発表 ポスター発表 企業展示

左上から順に,写真1:会場の建物と参加者たち,写真2:基調講演,写真3:口頭発表,写真4:ポスター発表,写真5:企業展示

■ インターネット情報


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Last updated: 2005年 8月24日
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