[タイトルページ] コンピュータとアクセシビリティに関する国際会議 ASSETS 2007参加報告 渡辺哲也 (国立特別支援教育総合研究所, 東京大学 先端科学技術研究センター) [ページ1]国際会議参加の目的 1.研究開発動向(主として米国の)を探る - 自分たちの研究開発の参考とする - 情報を国内の研究者にも提供(Web上で公開) 2.発表に適した会議かどうかを調べる - レベル,分野,雰囲気 - 実質的な討論ができそうか? 3.学会の情報保障について調べる [ページ2]Ninth International ACM SIGACCESS Conference on Computers and Accessibility ・ACM(Association for Computing Machinery):米国計算機学会 ・SIGACCESS :34 あるSIG (Special Interest Group) の一つで,コンピュータのアクセシビリティとコンピュータによる支援を取り扱う ・ASSETS はSIGACCESS が主催 - (少なくとも)2002年まではSIGCAPH ・1994年以来,2年に1回行われてきたが,2004年以降は毎年開催 [ページ3]会期,構成,採択率,進行 ・10月15日〜17日の3日間 ・基調講演 ・口頭発表(フルペーパー) - シングルトラック(口頭発表会場は一つ) ・ 情報や討論をシェアできるように ・ 持ち時間は30 分 - 86 件の応募から27 件採択(31% ) ・ ポスター+デモセッション - 33 件の応募から21 件採択(64% ) ・ 事前登録参加者:98 人 [ページ4]会期,構成,採択率,進行 ・学生発表大会(Student Research Competition) - 大学院生・学部生を対象 - 事前審査を経た数件をポスター形式で発表し,更に4件程度に絞る - 4件はメインプログラムで発表,優秀者を選ぶ ・Doctoral Consortium - メインプログラムの前日に10 件の発表 - 研究の途中段階で同じ博士課程の人間や専門家の意見を聞くことができる - 予稿の提出義務はなし - 選ばれた1 件はメインプログラムで発表 [ページ5]会場 Embassy Suites Phoenix - Tempe Tempe, Arizona USA 会場となったホテルの写真 [ページ6]基調講演 講演者:Jonathan R. Wolpaw(ニューヨーク州保健局) 演題:"Brain-Computer Interfaces (BCIs) for Communication and Control" [ページ7]"BCIs for Communication and Control" ・脳波EEGを64の電極で捉える実験を紹介 ・サルに義手を動かして餌をとらせる実験 ・P300(予測した結果でなかったときに出る波形)を活用してスキャン方式の文字入力を速めた例 - 利用者は23歳の科学者。文字盤も使うが,人が側にいるときだけ ・「BCIは心を読むわけではない (BCIs do not read minds.)。神経が義手などの動かし方を新しく覚えるのだ」 [ページ8]ASSETSのカバーする分野(今年のセッションタイトルより) ・Direct Manipulation ・Web Accessibility ・Non-Visual Presentation of Information ・Teaching and Learning ・Older and Younger ・Personal Technologies ・Supporting Communication [ページ9]Direct manipulation 肢体不自由者向けインタフェース ・pointingとcrossing(通過)の比較 ・slippingとdrifting ・画面の端を使ったポインティング支援 ・声で描く [ページ10]A comparison of area pointing and goal crossing for people with and without motor impairments ・背景:肢体不自由者はポインティングに苦労する ・提案:ポインティングではなく,ゴールの線を横切る(crossing)操作としたらどうか [ページ11]Pointingとcrossing ・結果:健常者よりも肢体不自由者の操作時間は短い - ⇒ 横切りは,肢体不自由者に適したインタフェースか? - エラー率が高いという問題 [ページ12]Slipping and drifting ・ペン入力をするときの誤操作をslippingとdriftingに分け,年齢によりこれらが起きる頻度の違いを見た ・slipping: ターゲットから外れる - 高齢者に多い ・drifting: 次のメニューに誤って移動する - 高齢者・若年者ともに多い [ページ13]Barrier pointing ・PDAの利用において,画面のエッジを利用することで,肢体不自由者にもポインティング操作を楽にできるというもの ・confirmの手法に工夫 - 選択領域内でペンを上げる,素速くペンを動かす,ペンの移動方向を変える [ページ14]VoiceDraw ・音声操作で描画を可能にするソフト ・ポインタの操作は音声認識(「上」,「下」など)ではなく,声による直接操作を利用 - 母音を2次元に配置し,特定の母音を発声することでポインタを動かす - 子音を使って動作の開始と終了,上下などのデジタルな動きを制御 [ページ15]VoiceDraw(続き) ・利用結果 - 音声認識(dragon Speech )を使って描いたものより,作成時間が短く,大きなキャンバスに描け,絵がデジタル絵画で描くより手書きっぽい - ( 健常な) 子供に遊んでもらったところ,数分の学習で描けるなど,学習に時間を要しない [ページ16]会場の様子の写真 ・左:口頭発表会場 ・右:ポスター発表会場 [ページ17]WebAnywhere ・背景:外出先でインターネットにアクセスすることが多い。しかし外出先の端末にはスクリーンリーダが入っていない。 ・提案:サーバーベースでWeb画面を読み上げる ・特徴:無料。 ・課題:アクセシブルではないページの読み上げには,既存のSRや音声Webブラウザと同様に苦労するだろう [ページ18]CAPTCHAs for blind users ・背景:認証画面における文字の読み取りは視覚障害者には困難。音声を出力する画面もあるが,これは自動検索エンジンで対応できてしまう [ページ19]CAPTCHAs for blind users(続き) ・提案: - 画面上に動物や乗り物などの画像を提示 - 視覚障害者用にはその音(鳴き声,動作音など)を提示し,リストの中から選ばせる ・ 課題 - リストからの検索だとロボットが対応できてしまうのでは? [ページ20]Web accessibility ・Flashコンテンツのアクセシビリティ自動変換 ・半自動アクセシビリティ測定法‐SAMBA ・盲人と晴眼者のブラウズ行動の比較 ・Webアクセシビリティ評価の標本化手法 [ページ21]Non-Visual Presentation of Information ・グラフへのアクセス‐iGraph-Liteシステム ・触図の自動生成 ・寸法知覚‐盲人と晴眼者の比較 ・マルチメディアコンテンツへのアクセス‐aiBrowser [ページ22]グラフへのアクセス‐iGraph-Lite ・背景 - 連名者の一人が経済学部の教員で,視覚に障害がある ・ 対応: - 学内でアクセシブルチームを作った - グラフの形( 傾きなど) を音声で説明する(linguistic description) ソフト - 視覚障害者への事前調査で,グラフの何を知りたいかを尋ね,グラフ形状からどのような説明を行うかを決めた [ページ23]グラフへのアクセス‐iGraph-Lite(続き) ・質問「触図や音響化と比べて音声による説明はどうか?」 ・回答「触図より作るのが簡単」 ・意見「音響ではグラフは伝わりにくい。たとえば折れ線が3 本あったらどうするのか?」 [ページ24]触図の自動生成 ・図を含む文書をスキャンして,図と文字の部分を切り分ける ・1枚の図を処理するのに平均8分以下 - 文字部分の切り出しと認識のため [ページ25]触図の自動生成‐実際の利用 ・National Braille Associationで点訳ボランティアらを対象に利用説明を行った ・質問「点字だと元の図の中に文字が入りきらないこともあるのでは?」 ・回答「凡例をわけて表示することも考える」 ・意見「抽出した線をベクトル化してはどうか?」 [ページ26]aiBrowser by IBM ・マルチメディアデータへのアクセス ・技術的にはフラッシュへのアクセスと同じ ・質問 - Window Eyesでも動くか? ・ 回答 - 今後対応を予定 ・ 意見 - JAWS やWindow Eyes といった特定のSR に限られるのではなく,フリーテクノロジーで使えると良い [ページ27]セッション Teaching and Learning ・電子テキスト ・点字利用者と晴眼者の数学的共同作業の支援 ・アクセシビリティエンジニア育成支援 [ページ28]セッション Older and Younger ・エピソード記憶の障害への支援 ・視覚化とデータマイニング‐高齢者の支援 [ページ29]ASSETSにおける情報保障 ・視覚障害者へのテキスト提供 - ASSETS事務局は関与しない - 必要な人が直接著者に問い合わせ ・ 聴覚障害者への通訳 - 要望に応じて文字通訳(速記) - 3 日間で3500 ドル,ACM が支払う - 交通費もACM が負担 速記装置ステンチュラ(製品名)と速記者の写真。 [ページ30]まとめ ・ASSETS2007で技術動向を見た ・分野の観点から,福祉工学の発表の場として適している ・情報保障:要望すれば対応 [ページ31]ASSETSについてさらに詳しくは ・SIGACCESSのサイト(http://www.sigaccess.org/)をご覧下さい。 Tempeの通りの写真。空が青い。